2018年1月30日

これがヒップホップの理想郷? ~In the Beginning: Before the Heavens By Blu & Exile~


ジャジーでファンキーかつソウルフルな極上のトラックの上に、イキのいいラップが乗ったら、ほら、こんなに最高のヒップホップになりました! ……とでもいったところか? 1990年代のヒップホップが好きな人はほぼ間違いなく好きになるはず!

アメリカ西海岸の2人――MCのブルーとビートメイカーのエグザイルが届けてくれたのは、1990年代のヒップホップのヴァイブスを含みつつ、それでいてとてつもなくフレッシュなヒップホップ・アルバム。そんな本作はこんな作品(↓)のようです。

そのジャジーな風合いのビートと巧みなライムのケミストリーが各所から高い評価を集めアングラ・ヒット、その後もあらゆるフォーマットで幾度となく再発された人気盤で、'00年代西海岸アンダーグラウンド・シーンを代表するロングセラーとなった2007年発表の名作『Below The Heavens』。そのリリースから10年を記念し、ラッパー Bluとビートメイカー Exileの黄金デュオが、当時制作された40曲以上に及ぶ音源アーカイブから「ベスト・オブ・ベスト」たる14曲をチョイス&コンパイル、その名も『In The Beginning』として銘打ちアルバム化!門外不出だった完全未発表音源から、少量プレスの再発盤にだけ収録されたボーナス・トラック曲、さらには当時手売りでCD-Rのみ販売されたレアなEP『Lifted』から数曲をピックアップするなど、まさに『Below The Heavens』の番外編ともいうべき充実の内容。いわゆる「未発表コンピ」と思って侮るなかれ。2012年の2ndアルバム『Give Me My Flowers…』に続く、彼らの「3作目」として緻密に再構築された文句ナシのフルアルバムである。

過去にリリースした作品のベスト・オブ・ベストというのだから、カッコヨサはいわずもがな。やや渋めのジャジーなフレーズを用いて大人っぽいダンディなたたずまいを見せつつ、ファンキーにやんちゃにハネるリズムを大量に導入し、そしてラップは陽気で、しかしクール……。

ヒップホップの黄金期の2010年代版、あるいは黄金期を再現……、したような感のある作品。ここにあるのはヒップホップの理想郷のひとつ?



2018年1月25日

ヒップホップ・ラヴァーによるチルアウト ~laidback session By illsugi & matatabi~


レイドバックした雰囲気の中で制作された作品なのでしょうか。タイトルがレイドバック・セッションなら、音が漂わせる雰囲気もやっぱりレイドバック。イルスギとマタタビ、2人の日本人ビートメイカーの共作による作品です。

イルスギのヤサぐれたビートとマタタビのユルいビートが、両者の中間地点で交わったらこんなビートに、こんなインストゥルメンタル・ヒップホップになった……、といった趣。曲というより、セッションの一部分を切り取ったような作りです。

くつろぎを、まどろみを届けるビート……。ヒップホップが好きな人の家に遊びに行って、まあ、くつろいでくれよと言われて、そして流れてくる音楽はこういう感じなのでしょう。



2018年1月22日

アトランタのヒップホップ・シーンからやって来た新しい波? ~Rags EP and Robots EP By EarthGang~


アトランタのヒップホップと聞いて、思い浮かべるのはアウトキャスト。今回取り上げた2作のEPを聴いて、思い浮かべるのはアウトキャスト。この2作はジョニー・ヴィーナスとドクター・ドットの2人からなるデュオ、アースギャングが2017年にリリースした作品です。アトランタのヒップホップ、そしてアウトキャストの血を引くデュオと言っていいでしょう、これは。

サザン・ソウルとフューチャー・ソウルをねちっこく、しつこいくらいにねちっこくしたねっとりとした音と、重く硬いドラムの音から構成されるトラック。そこにアトランタらしくトラップの影響がうっすらとある、言葉を詰め込むようなラップが乗る音楽を展開しています。

トラックが若干おどろおどろしいわりに、ラップは陽気であるというアンバランスなところが特徴です。アトランタの新しいスターとなるのでしょうか。





2018年1月19日

スマートでスタイリッシュなジャズ・ハウス・フロム・イタリア ~Lonnie's Reprise By Nicholas~


イタリアのニコラスと名乗るクリエイターの本作をスマートでスタイリッシュなものにしているのは、流麗に舞うサックスとピアノのジャジーな響き。とはいえ、厚みのある低音域の音がワルい空気を生んでいて、ワイルドなところも見せています。

低音域のそんなワイルドぶりはスマートとは言い切れず、セオ・パリッシュ周辺のデトロイト・ハウス、あるいはビートダウン・ハウスに近い雰囲気を感じます。言いたいのは、ただおしゃれなだけではないということ!





2018年1月16日

寒い夜はこのほっこりとした丸っこいビートであたたまろう ~confessions By jinsang~


ヒップホップとダブ、ダウンテンポといったあたりの音楽の理想的な交配とはこのことでしょうか。深く沈み込んでいく、ダブから抽出したような重心の低いリズムが心地よいチルアウトへと誘います。

チルアウト感溢れるインストゥルメンタル・ヒップホップの名手と言っていい、アメリカのビートメイカー、jinsangによる作品。何作目かとなる本作からは、真夜中に静かな空間でひっそりと鳴っているようなムードを感じます。

もっさりとしていてザラザラとした粗い質感、そして丸っこい……、そんなローファイな音がこの音楽をさらに心地よいものにしていて、寒い夜にほっこりとしたあたたかさを届けてくれます。では、あたたまりましょうか。



2018年1月13日

日常の隙間にこんなヒップホップを…… ~Dawgs ep By TMS~


仲間と会話をしているような、ちょっとだらっとしたマイペースな感じのラップがとてもいい。……というか、好きです。このラップが力の抜けたユルいトラックによく合っています。

日本に暮らして、ごく平凡な暮らしをする、わたしのような人間の近くで鳴っているような……? 庶民の日常に寄り添うと言いますか、日常を描くと言いますか、そんなヒップホップです。過去のmatatabi氏のツイートによると、こんな作品。




2018年1月11日

夜の闇の中で鳴るアンビエント ~Lowlands By TAYLOR DEUPREE & MARCUS FISCHER~


寝る前によく聴いています。アメリカ出身のテイラー・デュプリーとマーカス・フィッシャーというアンビエントの名手2人によるコラボレイト作品です。電子音の冷たさと人の手の温もりがうまく重なり合った、おだやかで心地よい時間を届けるアンビエントを展開しています。

中心になっているのはほんの少し冷たさが混ざったような、ほんのりとしたあたたかさのある電子音。その上にチリチリと鳴るやわらかいノイズ音や、倉庫に入っていた壊れたギターをつま弾いたような音、風に乗って運ばれてきた教会の鐘を思わせる音などが静かに乗っています。

夜の闇の中に吸い込まれていくような終わり方が、夜寝る前に聴きたいと思わせるのでしょうか。これを読んでいる皆さんも寝る前に聴いてみてください。いい眠りにつけそうな気がします。



2018年1月5日

アスリートのような、女戦士のような、フィメールMCによるヒップホップ・アルバム ~Laila's Wisdom By Rapsody~


女性らしい甘さなんて表現をすることがありますが、アメリカのフィメールMCであるラプソディが2017年にリリースしたこの作品で聴かせるラップからは、女性らしい甘さよりも、勇ましさやたくましさをより強く感じます。

アスリートのようと言いますか、女戦士のようと言いますか……。ラップにあるのはそんなストイックな雰囲気。とはいえ、女性らしさがないなんてことはなく、ややねっとりとした声には女性らしさがあります。

ナインス・ワンダーやクライシスが手掛けたトラックも、そのラップとよく似たテイスト。ヒップホップらしいハードな質感とストリート感のある音が、ソウルやR&Bの甘さといいあんばいに混ぜ合わされています。1990年代のヒップホップ、オーセンティックなヒップホップの音ですね。

このトロけるようでいて、しかしハード……、といった風の音でもって、ややゴージャスかつややドラマティックに展開し、キレ味鋭くタイトに突っ込んでくるドラムを交えています。この展開もまた1990年代的? この作品を聴く限りでは、ラプソディはオーセンティックなヒップホップの正統後継者と言ってよさそうです。

バスタ・ライムスやケンドリック・ラマー、アンダーソン・パーク、テラス・マーティン、BJ・ザ・シカゴ・キッド……、などがゲストで参加しています。それにしてもこの作品、これは2017年を代表する1枚でしょう! それぐらいかっこいい!