2016年12月28日

そのビートはたばこの煙のように ~Mudita By emune~


ローファイでチルなインスゥルメンタル・ヒップホップを聴きたいなら、まずはこの人の作品からといった感のある、ローファイでチルなビートの名手による作品。ジャズとソウルを下敷きにしたホンワリとしたヒップホップを聴かせています。

ゆったりと低く沈み込むビートは時間の進み方を遅くするかのよう。そしてその上に乗るジャズやソウルのレコードから抽出してきたかのような音は、たばこの煙のようにゆるりと虚空をさまよう……。

音をくゆらせる……、というのでしょうか、この感じは。ここでは音が、そしてビートが煙たい。目の前に立ち現れる音が煙たくかすんでいます。



2016年12月24日

クリスマス・イヴの夜はしんみりと ~pause By harris cole~


クリスマスや年末は静かに過ごそうか。そんなときにはこれだ。この音楽が心地よい空間を演出してくれるはず。アメリカのクリエイターであるハリス・コールによる作品です。インスゥルメンタル・ヒップホップ/ブレイクビーツとアンビエントを絡み合わせた、夜空で瞬く星のように美しい音楽を展開しています。

街中のクリスマスの喧騒から遠く離れた田舎……。この音楽はそんな場所の静かな夜を描いたかのよう。キラキラと光る都会のイルミネーションを遠くに見て、夜空を見上げる、見上げた先にはきれいな星がある……、そういう感覚を覚えます。

やさしく響くしっとりとした質感のビートと静かに輝く電子音、そしておごそかに響くピアノの音が重なり合うさまを聴いていると、これはヒップホップのビートメイカーが作るアンビエントか、と思えてきます。

いやしかしそれにしても最後の2曲。「louie's lullaby」と「goodbye」。この2曲のためいきが出るほどの美しさと言ったら……、いやはや素晴らしい。



2016年12月22日

重く沈み込む低音域の上に冷たい雨が降る…… ~YOUNG DEATH / NIGHTMARKET By Burial~


ダブステップを生んだ男と言われているイギリス出身のクリエイターであるブリアルのEP作品。やっぱりこの人はタダモノではなかったのですね。ダブステップが過去のものになった感があるいまでも、これは未知の音楽のように聴こえるのだから、ブリアルが作っていたのはダブステップだったのかと、そんなことを思いました。

ここで展開しているのはソウル/R&Bとダブステップ、ベース・ミュージック、アンビエントを同じ鍋の中に入れて、時間をかけて念入りに混ぜ合わせような音楽。デビューしてから10年以上が経過しても、才能が枯渇する様子はまったくなし。己の音楽を極め続ける求道者……といったような緊張感すら漂わせています。

重たく沈み込む低音域の上に、人の悲しみを吸い込んだ冷たい雨のような電子音が降り注ぐ……、そのさまが目に見えるかのよう。悲しくて、美しい。孤高の存在というのはこういう人のことを言うのでしょう。



2016年12月21日

妖しくみだらに……、なまめかしく踊る ~DEC LOOPS SAMPLES BEATS [4p] By GREEN ASSASSIN DOLLAR~


エロいのだけど、決して下品ではない。もしくはビッチではないとでも言うのでしょうか。エロさとみだらさを絶妙のさじ加減で混ぜ合わせて聴き手を酔わせます。この短い尺の音源でもグラリと酔わせるのだから、もうさすがです!

妖しくなまめかしいソウル/R&Bとワイルドなヒップホップが出会ったら、こんな感じになるのでしょう。この妖しくみだらな音にはどうにも抗えん……。いつも素晴らしい音源を届けてくれる日本人ビートメイカーによる音源です。



2016年12月18日

あくまでもユルくまったりと進むジャジーなブレイクビーツ ~Collabs By Mujo情~


もうすでに量産されつくしたジャジーなインストゥルメンタル・ヒップホップ/ブレイクビーツの作品の中のひとつ。……と、言えなくもないけども。カタイことは言わずにまったりしようよ。ジャジーなピアノとホーン、そしてユルいビートがそんなふうに語りかけてくる、ハンガリーのビートメイカーであるMujo情の作品。

これはMujo情の中間報告か、もしくは形になったからリリースしますといったところか。サラッと作ったかのような、軽さみたいなものを感じます。はたしてこの先に完成形があるのかどうなのか……。



2016年12月11日

曇り空の日、雨の日も悪くない ~Wingbeats By Hidden Orchestra~


暗闇の中に潜む美しさ……、なんて具合に表現できそうな音楽。繊細で上品、それでいて熱い生命力みたいなものを感じさせる音……。これにはどうしたって引き込まれます。スコットランド・エディンバラ出身のプロデューサーであるジョー・アチソンなる人物のプロジェクト、ヒドゥン・オーケストラのEPです。

じっくりと厳かに刻まれるリズム、いまにも寸断されてしまいそうなほどに繊細に響くピアノとハープ、暗い雨雲のように重々しくたゆたうストリングス……といった音たちが絡み合う、抒情的なポスト・クラシカル/エレクトロニカを展開しています。

曇り空の日、雨の日を描いたかのような音楽。これを聴いていると、そんな日も悪くないよねと思ったり。





2016年12月8日

ロマンティック、かつスピリチュアルなハウス・ミュージック ~romantic standard part.1 By kuniyuki and more~


ああ、これ。何とロマンティックなのでしょうか。クラブで一夜を過ごした翌日のひどい二日酔いも、クラブで一瞬頭をよぎったスケベ心も、清らかな思い出に差し替える全10曲。いや、というより、この曲たちを前にして、スケベ心が沸き立つなどというのはけしからんでしょう。

……というこの作品はクニユキ・タカハシ、井上薫、KZAなどといった日本の精鋭たちから、セオ・パリッシュ、トッド・テリエ、セバスチャン・ムラート、ヘンリク・シュワルツなどの海外のビッグネームによる楽曲を収録した、日本のダンス・ミュージック・レーベルであるmule musiqのコンピレーション・アルバム。音楽配信サイトのオトトイのみでの販売です。

並んだ曲の中心は心を静め、瞑想の世界に導くかのような、スピリチュアルな気配すら感じさせるビートダウン・ハウス。もしくはニューディスコといったところでしょうか。静寂の中に美しさを潜ませたハウス・ミュージックが続きます。聴き進めていくと、これがわびさびというものか……と思ったりも。

そして深みに導く曲が続いた先の一番最後の曲、「once again」から聴こえてくる透徹したピアノの響きが、暗闇に差し込む一筋の光のように美しく、心が洗われる感覚を覚えました。ハイレゾ音源で1500円という良心的な価格です。みんな買おう。

※購入はこちらから

Track List
1. all these things (theo parrish remix vocal ver) By kuniyuki
2. anytime is fine By axel boman
3. the secret field (todd terje remix) By kaoru inoue
4. le troublant acid By kza
5. tellakian circles (runaway remix) By mugwump
6. grand central (mcde remix) By dj sprinkles
7. shout (12inch version) By kuniyuki
8. illuminate By aril brikha & sebastian mullaert
9. reap love By fp-oner
10. once again (henriks version) By henrik schwarz&kuniyuki feat. fumio itabashi







2016年12月3日

レイドバックした風を運んでくるブレイクビーツ ~Back to Rock By ILL.SUGI~


『バック・トゥ・ロック』というから、ロッキンなギターがガーンと鳴っているのかと思いきや、そんなこともない。日本人ビートメイカー、ILL.SUGIの新作です。ここで行われているのは1960年代、もしくは1970年代あたりのソウルのフレイヴァーを吸い込んだロックとブレイクビーツの融合……でしょうか。

水中に深く沈みこんでいくようなベースとドラム、そして古いソウルやロックのレコードからサンプリングしてきたような音が、ややレイドバックした心地よい空気を運んできます。

と、思いつつ聴いていると、ここあるのはサザン・ロックか……。そんなことを思わせる乾いた風を感じます。この作品が吹かせるその風に身を浸せば、これから冬を迎える日本にいても心は暑い地域へ……。あと、ジャケットがかっこいい!



2016年12月1日

おうちへ帰ろう、このユルいブレイクビーツを聴こう ~Saikei Collection Vol. 15 By saikei collective~


心に染み渡るローファイな質感のユルいビートたち。染みますよ、染みますよ、これは。心にこのビートが。これからの寒い季節にはこういう手作りの感触を残した、ザラッとした粗めの音が合うのではないでしょうか。

あれよあれよという間にもう15作目となるコンピレーション。フィリピンのレーベルである栽景コレクティヴから届けられた、ダウンテンポ・ミーツ・ブレイクビーツ集です。約90分の中に48曲がギュギュッと詰め込まれています。

ヒップホップを軸にした音をあたたかみのあるソウルやジャズのテイストがやさしく包み込む、ほっこり感のあるビートの連なり。ストリートにも、クラブにもどちらにも馴染めない、あたたかい家で聴くためのブレイクビーツ/インストゥルメンタル・ヒップホップといったところでしょうか。

43曲目と44曲目のRudeMannersなるビートメイカーの曲を聴いて、心がポッとあたたかくなりました。誰か心をあたためて……!と思っている方はこの曲からどうぞ。