2018年10月26日

新たなジャパニーズ・メロウ・ソウルがここに ~Shining Star, For You By Marter~


ここのところ、この日本人シンガーソングライターの音楽に心をつかまれっぱなしです。この日本人……、というのは東京都出身のマーテルのこと。今回取り上げた2作のシングルでも、これぞジャパニーズ・メロウ・ソウル!と言いたくなる音楽を聴かせてくれています。

ふくらみがあって、フンワリとした、心地よい歌のメロディは健在。ドラムが4つ打ちのリズムを刻む「Shining Star」の軽やかな躍動、つま弾かれるギターの音が春の風のように流れていく「For You」のあたたかさ……。そんないい音たちがすーっと心に染み渡っていくかのよう。




2018年10月25日

都会的な空気をまとったスマートな作風のヒップホップ・アルバム ~budding ornithologists are weary of tired analogies By milo~


格闘家がサラリサラリと相手の攻撃をかわすように、いなすように。そんなふうに軽やかに流れ出てくる言葉たち。1992年生まれ、アメリカ・ウィスコンシン州出身のMCであり、プロデューサーでもある、マイロのそのスムースで少しラフなラップを堪能できる作品です。

本作はマイロにとって4作目となるアルバム。流麗なジャズやクラシカルなソウルのテイストを混ぜ合わせたトラックがクールに、やや控えめと言えるように鳴っていて、それがラップをより際立たせているように感じます。

ヒップホップらしいイカツさをそれほど感じさせない、スマートな雰囲気と都会的な空気を感じさせるのも、この作品のいいところ。大人びた落ち着きと子供っぽいやんちゃさがいいバランスで重なり合った、シティ・ボーイによるヒップホップ・アルバム、といった趣。



2018年10月20日

ジャズマンが奏でるヒップホップ ~Happysad By Kiefer~


2000年以降のヒップホップのスピリットを持ったジャズのキーボーディストと言いましょうか。本作の作者であるキーファーはそんな人物であるように思います。若干ヨレた感じのリズムやローファイな音……。これは2000年以降のヒップホップの影響下にあるものでしょう。

甘く、メロウでいて、ファンキー。そしてヒップホップっぽさを随所に忍び込ませたジャズ? いや、インストゥルメンタルのヒップホップ? ここで展開しているのはそういう音楽です。J・ディラなどのビートメイカーの影響を受けたジャズマンが奏でる音楽といった趣。

優等生じみたところとBボーイっぽいやんちゃさが混じり合った、にくらしいアーティストです、このキーファーという男。それゆえに多くの人から愛されそうな作品に仕上がっています。ちなみにこれはキーファーにとって2作目となるアルバムです。




2018年10月19日

甘くてワルいブラック・ミュージック ~$$$ DOLLA $$$ QUITE STORM $$$ VOL.1 By GREEN ASSASSIN DOLLAR~


R&Bやソウルを中心にしたDJミックス。……なので、R&Bやソウルならではの甘さはもちろんあります。しかしグリーン・アサシン・ダラーがミックスをしているのだから、それだけではないわけで……。ヒップホップゆずりのワルさがしっかりと練り込まれています。

つまり、いつものグリーン・アサシン・ダラーの音楽がここでも楽しめるというわけです。ワルさと、それとワイザツな香りが、いいあんばいに混じり合っています。

2018年10月16日

幻想的で、そしてどこまでも美しい、フォー・テットの世界 ~Live at Funkhaus Berlin, 10th May 2018 By Four Tet~


2018年5月10日、場所はベルリンで。イギリス人クリエイターのフォー・テットことキエラン・ヘブデンが行ったライヴの模様を収録した作品。これがもうため息が出るほどに……、あまりに素晴らしい……。

フォー・テットが2017年にリリースした『ニュー・エナジー』で展開した、おとぎ話の世界を音で表現したような幻想的で美しい世界。その世界がここでは何倍にも引き延ばされ、そして広がり、聴き手を包み込んでいます。

これはどういう音楽なのかと聞かれたら、幻想的なエレクトロニカと答えるでしょう。しかしここにはポスト・クラシカルに通じる美しい旋律や、優れたダンス・ミュージックとして機能するダンサブルな4つ打ちのリズムがあり、特定のジャンルに収めることがバカバカしくなってきます。

この作品のトータルタイムは約117分。ほぼ2時間という長さです。ここではない美しい世界を表現するためにはこれぐらいの尺が必要なのでしょう。どっぷりとフォー・テットの音楽に浸かり、ここではないどこかに行きましょう。

2018年10月13日

あくまでもクールに踊れ ~pavilion By pavilion xool feat. SIRUP~


フューチャー・ファンクのテイストを含んだ、あまりにクールなトラック、そしてラップに心をつかまれました。新たな才能が現れた……、そんなことを思わせます。

作者は今年2018年に20歳になったという、pavilion xoolなる東京在住のトラックメイカー。ラップはSIRUPと名乗るMCによるものです。2人ともおそらく日本人。読み方は分かりません……。

フューチャー・ファンクのテイストを含んだと書きましたが、UKガラージやディープ・ハウスのテイストもうっすらと……。ダンス・ミュージックらしいアップリフティングなリズムがありつつも、クールなムードが一貫しているところがかっこいいポイントではないかと思います。

2018年10月11日

ファンキーな装いのアンダーソン・パーク ~Tints By Anderson .Paak ft. Kendrick Lamar~


ここにいるのはファンキーなアンダーソン・パーク。ケンドリック・ラマーと共に低音域が粘っこく、ねちっこくウネる、ファンキーなヒップホップを聴かせています。これからリリースされるアルバム『オックスナード』の収録曲のようです。

黒人音楽らしいねちっこさや黒さみたいなもの?を残しつつ、アーバンかつスタイリッシュな雰囲気を漂わせる曲に仕上げています。つまり、いつものアンダーソン・パークということなのかもしれません。

2018年10月10日

日々の暮らしの隙間にこのジャマイカン・ジャズはいかが ~FAMILY By 守家巧~


南国の生あたたかい心地よい風を感じる作品。ここから聴こえてくるのはゆったりと、まったりとしたムードのレゲエ、いや、ジャマイカン・ジャズと言うべきでしょうか、そんな音楽です。極上のチルアウト・ミュージック、もしくはリラクシング・ミュージックと言ってもいいかもしれません。

この作品の作者であるベース・プレイヤーの守家巧を中心とした名プレイヤーたちによるリラックスした演奏が、聴いている側のからまった心と体をほどいてくれるかのよう。毎日忙しくてたまらない……、という人はこの音楽に耳を傾けてみてはいかがでしょう。心が和み、ほっと一息……、つきましょう。

曲はすべてカバー。そしてすべての曲をベース、ピアノ、ドラムという編成で演奏しています。参加したプレイヤーは以下の通りです。

守家 巧(ベース)
坪口昌恭(ピアノ)
渡辺ショータ(ピアノ)
ちゃんMARI(ピアノ)<ゲスの極み乙女。>
柏倉 隆史(ドラム)<toe/the HIATUS>
大井一彌(ドラム)<yahyel>



2018年10月4日

甘い音の世界におぼれて ~Chillhop daydreams By Chillhop Records~


ユルく、ゆるやかに、そしておだやかに……。そんなふうに音は、ビートは流れていきます。何ですか、この心地よさは……。このコンピレーション・アルバムはオランダのレーベルであるチルホップ・レコーズがこれまでにリリースした作品の中で、もっともチルアウト感のある作品ではないでしょうか。

ここに並ぶのはテンポをだいぶ落として、ジャズのテイストを絡めたインストゥルメンタル・ヒップホップ。甘いメロディがかわいらしくデコーレーションされたお菓子のようなキュートな雰囲気を生み、甘い音の世界に包み込まれる感覚を覚えます。また、それと同時に甘い眠りがやってくる……。


2018年10月2日

ビートは揺らめきながら、どこかへと ~Movin' Scent By BUDAMUNK~


ゆったりとしたテンポで低く沈み込んでいくリズム……。しかしその上に乗る電子音は揺らめきながら、フワリフワリと浮き上がっていく……。そんな作りのインストゥルメンタル・ヒップホップ(ゲストのMCのラップが入っている曲もいくつか)が並ぶ、日本人ビートメイカー、ブダモンクの作品です。

この作品にあるチルアウト感と言いますか、トリップ感と言いますか、時間の感覚を消滅させるような、日常から徐々に外れていくような感覚。この強烈なチルアウト感がこの作品の一番の特徴です。

時計の針を止めるようにリズムは粘っこく刻まれ、電子音は甘い陶酔感を漂わせながら、曲は進んでいきます。そして聴き手の心はどこかへと誘われ……。